80年代後半より「ビデオ・インスタレーション」を作り続けるスイス人の女性アーティスト、ピピロッティ・リスト。日本の美術館における初個展が東京・品川の原美術館にて開催され、最終日の閉館1時間前に駆け込んだ。詳しい展示内容は
こちらに詳しく掲載されているのでぜひ見てみてください。
正直言って90年代以前の所謂ビデオ・アート作品を今見るのは厳しかったりするのでこの展覧会にも懐疑的でしたが、いやいや本当に素晴らしかった。リストが「個人の家」ということを考慮して選んだ作品は初めての個展にも関わらず2006年、2007年など最近の作品がほとんど。特に気に入った作品は以下。
・「星空の下で」床いっぱいに宇宙、住宅、女などの目の回るような映像がランダムに投影され、まるで宇宙遊泳のような気分に。「
パワーズ・オブ・テン」に入り込んだような感覚。
・「ダイヤモンドの丘の無垢な林檎の木」天井に林檎の枝とプラスチックのごみが吊るされている。夕焼けや海岸の映像が投射されると、廃材と木の影がまるでダイヤモンドのように美しくゆらめく。
・「部屋」座り心地のよい巨大な赤いソファに座って、ちいさなテレビのリモコンをザッピング。
・「あなたの宇宙カプセル」美術品運搬用の木箱の中にあるのは巨大な月と女の子の部屋のミニチュア。
・「膝ランプ」専用のイスに座ると、ランプシェードから自分の膝元にミクロキッズみたいな映像が投影される体験型アート。
どの作品も我々の身近に溢れている日常用品と映像を組み合わせた”インタラクティブ・アート”に近いアプローチ。「視点・価値観の転換」という彼女の作品のテーマは、インタラクティブ性を取り入れることによって格段に鑑賞者に伝わりやすくなったような。ビデオ・アートがはまりがちな独りよがりの表現という罠にまったく陥らない軽やかな姿勢が素晴らしい。こういう頑固さからかけ離れた芸術性って女性ならではだと思うんですけど、どうでしょう。フェミニズムとかジェンダーとか小難しいところでなく。
あとは超勝手に音楽と映像の親和性について考えさせられた。「音楽がストーリーを喚起する時すごくエモーショナルな気分になって”あれは素晴らしかった”という判断をいままで下していたのだが、それって映像美じゃなくて感情的になっているのかも」みたいなことをぐるぐる考えていたら帰りに寄ったディーン&デルーカで物欲がエクスプロージョンしてしまった。今は反省している。けどおいしいのでいいや。