2012年公開された映画ベスト10の3位にランクインした映画「テイク・ディス・ワルツ」ですがこれがもう一言で言うと「鬼畜の所業」という感じだった。監督は女優でもあるサラ・ポーリー。
結婚して5年がたつマーゴとルーは、まだ子どもはいないが仲睦まじく穏やかな日々を過ごしていた。そんなある日、マーゴは仕事で訪れた島で出会った情熱的な青年ダニエルにひかれるものを感じてしまう。さらに、ダニエルが偶然にも自分たちの家のすぐ向かいに住んでいることを知り、マーゴの心は揺れ動いていく。
というあらすじなんですが、
「女性特有の理由なき気まぐれで
夫をないがしろにする妻」
という話ではないんですね。
この「仲睦まじく穏やかな日々」というのが曲者。
マーゴとルーは朝から晩まで「愛してるよ」と言い合ってるんですが、お互いの内面を踏み込んで理解しようとはしていない。そのことに、ルーは気づいていないけど、妻のマーゴはフラストレーションをためていた。
マーゴはつねに、ルーが自分に無関心であるという不満を持っていたようである。子供が欲しいというといやがるとか、「わたし仕事を続けるわ」と言っても「どんな仕事?」とか聞かないとか。女性にとっては「無関心=愛情がない」なので、マーゴは愛されている実感があまりなかったんだと思う。
そのスレ違いの極めつけがレストランのシーンだと思うんですけど、旦那が「君とぼくは一緒に暮らしているんだから、お互い知らないことなんか無い」と言うんですね。
これはルーにとっては愛情表現なのに、まったくの逆効果になっている。心からマーゴのことを愛しているのに、それを伝えられていないんですね。子供っぽいところがあるのか、自分しか見えてなくてマーゴを気にかけることができない。そのうえ、マーゴが不満を抱えていることもわからず、一緒に生活して「愛してる」といっていれば、マーゴは自分を100%理解してくれて、永遠に一緒にいてくれるものだと思い込んでいる。
その一方で、情熱的な青年ことダニエルさんはマーゴのことを気にかけていると伝えるスキルを持っていた。彼女がつらそうにしていたら声をかけるし、「今こう思っているんでしょう」と慮る。どうやって働きかければ、彼女に自分が愛しているとわかってもらえるのかを伝えるのに長けていた。
ルーとダニエルのどちらがマーゴをよりたくさん愛しているのかはわからない。違いは一緒にいる年月ではなく、ダニエルはスキルを持っていて、ルーにはそのスキルがないということだ。かくして、マーゴはダニエルを選んだ。
これは「愛してる」と伝え続けることで
関係性を維持する欧米のカップルが見ると
すごくびっくりする話なんじゃないかと
思ったのですがどうなんだろう。
その建前だけでは、もはや関係は維持できない。
昔の人だったら人情でルーのもとにとどまったんだろうが、
現代だとそれは通用しない。
かつてイーストウッドが撮った「マディソン郡の橋」も
ほぼ似たような話だったが、結末は違った。
イーストウッドは男だし人情家だから「スキルの無いものが負ける」
という話にはしなかったんだろう。
ところがサラ・ポーリーは女で冷酷なので、
このご時世では恩や情けは何の役にも立たず、
スキルのある者だけが勝って何かを得ることができるという
話を描くことができたんではないかと思いました。
しかも不器用で昔かたぎのやさしい旦那を
セス・ローゲンに演じさせるとはますます心が痛んでひどい。
結局マーゴもさきの結婚の問題点がわかってなかったので、
また同じ事を繰り返すしかないんですが。
サラ・シルヴァーマンもすばらしく、
「人生なんかどこか物足りなくて当たり前なのよ。それに抵抗するなんてあんたバカよ」
って言うところとかしびれました。この言葉も正しいのか正しくないのかわかんなくて深い。
まあ、「レボリューショナリー・ロード」「ブルー・バレンタイン」に続く、タイトルを聞くだけで鬱になるシリアス・リレーションシップ3部作ということで金字塔間違いなしの名作誕生です。
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