2009年1月5日月曜日
映画「ラースと、その彼女」
アメリカの田舎町に暮らす、気が優しくてシャイな青年ラース。隣の家には幸せそうな兄夫婦が住んでおり、なにかと気にかけてくれるが人付き合いが苦手なラースは彼らの気遣いをうまく受け入れることができない。会社では新入りのかわいい女の子マーゴがラースにモーションをかけてくるが、それにも向き合うことができない。結果、ガレージで孤独に暮らしているが、特にそれを悩んでいる風でもない。日曜日には教会に通う礼儀正しい青年で、町の皆は彼に好感を持っているようだ。
そんなある日、会社の同僚がオーダーメイド可能なセックス・ドールのことをラースに話す。全く興味がなさそうなラースだったが、何日か後、ラースの家に巨大な木の箱が届く。そう、ラースはいつの間にかブラジル人風ラブドールを購入していたのだ。
早速兄の家を訪ね、「インターネットで知り合ったガールフレンドが家に来たんだ。つれてきてもいいかな」とうれしそうに話すラース。兄夫婦は喜び、食事と部屋を用意するが彼がつれてきたのはゴムでできた人形。人形を「ビアンカ」と呼び、まるで人間のように扱うラース。「彼女は宣教師なんだ。空港で荷物を全部盗まれてしまったんだよ。車いすも。」兄夫婦はどうしていいのかわからない。
兄夫婦はラースが気が狂ってしまったのかと思い、病院の先生や教会の信者たちに相談するが、あまりにも幸せそうなラースの様子に、段々回りの人もビアンカを人間として扱うようになる。ブティックの経営者はビアンカをモデル(マネキン)として雇い、老人ホームに慰安に行かせ、コミュニティにとけ込んでいく。
あまりに突飛な設定なので、てっきりコメディかと思ったら、すごく心理学的なお話で驚いた。ラースにとってビアンカは傷つきやすいエゴ、乗り越えるべきトラウマが具現化したものだ。他人の家ではほとんどものを食べられなかったラースが、ビアンカを得たことで二人分のステーキをたいらげ、陽気に話し、ついには同僚の誕生パーティにまで出かけてダンスをする。
ラースのトラウマとは、自分の出産のために命を落としてしまった母のこと。母の死のために、人嫌いになってしまった父のこと。ラースは母の編んだブランケットを未だに手放せない。ものすごくできた兄の嫁カリンが出産を控え、ラースはすごくナーバスになっている。そして、ラースは他人から触れられることができない。
「カリンは素晴らしい女性だよ。僕も兄も女性運がいいよね。ただ、一つだけカリンについて心配なことがある。彼女は不安だから、誰かを抱きしめようとする。でも、抱きしめられると痛い人もいるんだ。まるで寒い夜、外に立って、足の感覚がなくなるようにビリビリしてしまうんだよ」
ラースがビアンカというオルター・エゴもしくはスケープ・ゴートを自ら手に入れたのは、マーゴの存在があったから。マーゴには触れられても痛みを感じないことに気づいたとき、ビアンカとの決別の時が訪れる。
これ、ものすごくよくわかりますよ。いい年になってくると、パートナーがいるのが当たり前で、そうでないとコミュニティに入れなかったりするから。たとえゴム人形でもいいんです。いさえすれば。そうすれば一人前にみてくれるので、劣等感を持たずに人と話せたりするでしょ。それもおかしな話ですが、世の中ってそういう風にできてるよね。あまりに傷つきやすい人がどうやって社会に向き合っていくのかがまさかラブドールを通じて描かれるなんてびっくりしました。脚本は人気ドラマ「シックス・フィート・アンダー」の人ってことで納得。
主演のライアン・ゴズリングの、本当につらそうな顔とか、強烈な存在感ですばらしいです。ラースがテディベアに蘇生術を行うシーンはあまりのキュートさにこっちが死んでしまいそうになります。田舎町の話しなので、服が強烈にダサいところもかわいい。
人間関係に悩める方はぜひ見に行ってみてください。悩んでない人はラースがただの変人にしか見えないと思うのでおすすめしません。
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