2009年7月1日水曜日
映画「レスラー」
人間こればっかりは理解できないというものがある。私にとってはプロレスがそれだ。同じく苦手な演劇とはいつの日かわかり合える時が来る気がしなくもないが、プロレスとはいつまでたっても交わらない平行線のままな気がする。
映画界から忘れられ、ボクサーをやっていたミッキー・ロークが落ちぶれたプロレスラー役でカムバックを果たした映画「レスラー」。
ロークが演じるのはかつて80年代に大スターだったプロレスラーの"ラム"ことアンディ。当時の仲間が首尾よく中古車自動車販売業に転身してるのを尻目に、リングの楽しさが忘れられない彼はトレーラーハウスの家賃も払えないようなどん底生活を送りながら現役でリングに立っている。
彼の数すくない心のオアシス、ほのかな想いを寄せるキャシディは場末で働くストリッパー。美人で気がいいが、夏木マリのごとき熟女でバチェラー・パーティに来た客から「俺のかあちゃんと同世代だろ!」などとやじられてこれまた痛々しい。さらにラムにはたった一人の肉親である娘がいるのだが、昔の放蕩時代に誕生日も祝わなかったことなどを恨まれて口も聞いてくれない。
それでもラムはリングに立つ。生活費を稼ぐためにスーパーでバイトしながら。と、あらすじを聞いただけでも手垢にまみれたクリシェだらけの作品なのだが、ミッキー・ロークの演技が凄すぎて感情移入せずにはいられない。
序盤の試合で、ラムは手のサポーターにカミソリを隠す。「試合中相手に使うのかな?」と思いきや、彼はそのかみそりで試合中自分の額を切り裂く。派手に流血させて、観客を喜ばせるためだ。その姿を見た時にプロレスとは、エンターティナーとはなんと業の深いものであることかと震えた。
この世界には二通りの人生がある。年月をかけて美しく磨き上げられ続けたグラン・トリノのようにピカピカでポーチのついた家に住む人生と、塗装がハゲてどこもかしこもへこんでいるボロボロの中古車のような、電話もないトレーラーハウスに住む人生。ラムとストリッパーのいるのはもちろん中古車のほうだ。
彼らがどんなに懸命に生きたとしても、ピカピカの人生の人には彼らの存在は姿すらも見えていない。どうせ生きるならピカピカの人生のほうがいいに決まっているが、それでも「バカだなあ」と思いつつもロークの身体の全てのガソリンを燃え尽くすような姿には胸を打たれずにはいられない。自分はろくでなしのできそこないの人生を嘆いているだけだが、ここにはこうやってバカみたいに立ち向かってる人がいるんだ。
映画館がすすり泣いているのを私は初めて見た(多分吉祥寺だったからだと思う)。でもどシリアスなんじゃなくて、すごく淡々としててギャグシーンも凄く笑える。観客に「俺の義足で悪役をぶっ叩いてくれよ!」って言われてほんとにやっちゃうとことか。
ハリウッド映画というよりヨーロッパ映画のような描き方だったからかもしれないけど、主演男優賞はこの作品に贈るべきだったと思う。「ミルク」も物凄く良かったけど、没入感や存在感ではこの作品の迫力を超えるものはないかも。服が濡れるほどズタボロに泣かされてしまった。ガンズアンドローゼスで泣く日が来るとは思わなかったなあ。ボロボロ車の人生がどんな気持ちか少しでもわかるような気がする方にはおすすめです!
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2 件のコメント:
うひょー。
観ようかなーどうしようかなーと気になってはいたけれど、この記事を読んだら今すぐ仕事を放り投げて観に行きたくなってしまった。
今週末、ちがう映画を観に行こうとしてたけど、こっちにしようかなー。
<なっちゃん
なっちゃんもプロレス苦手そうw ぜひぜひみてみて〜!
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