2009年9月11日金曜日
メタモルフォーゼの話
盲目的に恋しているとき、人はその感情が永遠に続くものだと思うものだが、いつのまにかそいつは消えてしまう。香りづけに置いておいた石けんがいつのまにか小さくなるように。しかも相手は何も悪いことはしていないし、自分が愛したかつての姿でそこにいるのに、ただ自分の感情が違う方に向いてしまっていることに気づくとき、自分がものすごく悪い人間だというような、奇妙な罪悪感に苛まれる。どうして人の心が離れて行くのか、それは誰にもどうしようもない、仕方のないことなのだ。
というのはUKのDJジャイルス・ピーターソンの話で、高校の時からアシッドジャズが好きだったわたくしにとってジャイルスは神のような存在だった。ジャイルスの選ぶアシッドジャズやフリーソウルには一つも外れが無く、ジャズ、ファンク、ジャズボッサなどジャイルスはたくさんの音楽を教えてくれた。あれからもう15年くらい経つけれど、彼は今も全く変わらず良い音楽を世界じゅうのレコードやさんのほこりをかぶった片隅から見つけては熱狂し、それがリスナーをも幸せにしてくれる。
BBCラジオでジャイルスを聞かなくなったのはいつからだろうか。いつのまにかエレクトロのアニーマックやジェイモ&ジョージ、さらにはピート・トングのトランスまで聴くようにまでなったのに、ジャイルスの番組を聴くことはなくなった。むしろ今はトランスのほうがいけるんじゃないかと思っている。
という思いを抱えながらジャイルスがDJをする山の上のステージに向かった。ジャイルスのDJを聞くのははじめてだったが、自然消滅で音信不通になった昔の恋人に会いにいくような奇妙な気分だった。
そのときジャイルスのステージから聞こえて来たのが、上に貼った往年のガラージ・アンセムでわたしの最近の一番のお気に入り曲「Neighbourhood」だった。ああ、なんと。何年も彼のラジオを聞いていなかったが、好きな曲はやっぱり一緒じゃないか。いまでは心が離れてしまっているけれど、わたし、ジャイルスのことを愛していたのは嘘じゃなかったわ。
ジャイルスのDJはソイル&ピンプセッションズとか、サルサとか、時代とともに進んでいるけれど、昔と1ミリもぶれていないところにいた。それを聴きながら素晴らしい音楽があって、ちゃんと進化していて、確かにすごくいい曲だということは理解できるのに、かつてのように心が動かないのはどうしてだろうか、人の心はなんて勝手なものなのだろうか、と考えていた。
しかし彼のプレイには迷いがなかった。子供のように、自分のお気に入りの曲をかけては観客を熱狂させていた。その姿に、なぜだか昔の自分が肯定されたような気がして、きっとこれがジャイルスのDJを見る最初で最後の機会だと思うけど、ああ見てよかったなあとすごく清々しい気分になった。というわけで聴いて下さい、Zed Bias featuring Nicky Prince & MC Rumpusで「Neighbourhood」。
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2 件のコメント:
な、泣かせるじゃねえか・・・。
<TDせんせい
今日はありがとです!
泣いた・・泣きました・・www
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